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読書と私■人生は短い  『ノルウェイの森』から
 村上春樹氏。いまやノーベル文学賞の有力候補と評されています。実のところ私は、あの『1Q84』を途中で挫折したりして、村上氏の素晴らしさを十分に受け止める感性にやや欠けているのかとも…。しかしながら20代半ばの頃、社会人になって小説(仕事に関係ない本)を読むことがめっきり減っていた時期に、古本屋でなんとなく買った『ノルウェイの森』については、それを読むのが楽しみな数日間を過ごした記憶があります。哀愁と優しさが静かに流れるあの独特の雰囲気はとても新鮮でした。『ノルウェイの森』は、1987年に刊行され大ベストセラーとなった小説です。
  その『ノルウェイの森』なかに、永沢さんという登場人物がいます。主な登場人物のなかでは、私が最も親しみを感じなかった人物なのですが(いま再読したら、別の印象をもつのかも知れません)、その永沢氏の考え方でありながら『そうだよ。俺もそう思う!!』と強く頷いたものがありました。それは、

  『…彼(永沢さん)は…死後三十年を経ていない作家の本は原則として手にとろうとはしなかった。そういう本しか俺は信用しない、と彼は言った。「現代文学を信用しないというわけじゃないよ。ただ俺は時の洗礼を受けてないものを読んで貴重な時間を無駄に費やしたくないんだ。人生は短い」…』

  文学に限らず、ときどきの風潮というものが全く当てにならない場合があることは、30年を要さずとも数年前のこと(そのときに流行していたことや、もてはやされたり叩かれたりしていたこと)を思い出して、現在と比べてみれば明らかです。
  さて、図書館に行けば、時の洗礼を乗り越えてきた著作が膨大に所蔵されています。それらを全て生きている間に自分は読むことができるだろうか?と自問すれば、その答えは間違いなく否です。先人達の知的作業のエッセンスがそこにあるのに、全てどころか、ごくごく一部しか生きている間に目を通すことができないのが私達の現実でしょう。
  『死後三十年を経ていない作家』という選別基準は少し考える必要がありますが、確かに、『人生は短い』のだと思います。

■お勧めします  その一

『一瞬の風になれ』(佐藤多佳子著、講談社文庫)

  東高生の皆さんには、この『一瞬の風になれ』を強く推薦いたします。
  主人公は、陸上部に所属する高校生である新二。部活動を中心とした高校生活を描いたもので、特殊な状況設定は殆ど無く(新二の兄がJリーガーの卵であることが少し特殊か…)、普通の高校生が日常的に体験し得る世界が描かれています。
  それなのに、とても感動します。
  登場人物ひとりひとりの姿が具体的に目に浮かび、その心の揺らぎが細やかに伝わってきます。著者は、登場人物達を愛しながら描いたのでしょう。また、高校の陸上競技に関する記述も詳しく丁寧で、とても臨場感があります。そうとう綿密な調査取材がその臨場感を支えているようです。
  なお、この小説はドラマ化もされました。しかし、わざとらしい状況設定で無理に感動を引き出そうとする昨今のドラマには、この小説は合わなかったのでは?と思います。ドラマを見た方も、そのときの先入観を捨てて読んでみてください。
  東高生の皆さんにこの小説を強くお奨めするのは、感動することも理由のひとつですが、それよりも皆さんの生き方に、きっと良い影響を与えてくれるだろう小説だからです。また保護者の方にもお薦めです。若き日を想い何度も目頭が熱くなることでしょう。

■お勧めします  その二

『永遠の0』(百田尚樹著、講談社文庫)

  この小説の主人公は、現代を生きる健太郎26歳ですが、その健太郎が太平洋戦争の末期に若くして特攻で戦死した祖父のことを調べる、という筋立てなので、戦争小説&戦時下の青春小説&現在を生きる私達の小説、のようになっています。
  祖父を知っている数少ない生き残りの方々を主人公が訪ねて話を聞くことで物語が進み、次第に、祖父の生き方、戦場の実態、そして私達はどう生きるべきかという著者のメッセージが、明らかになってきます。この小説も『一瞬の風になれ』と同様に、とても綿密な調査取材を基礎にしているのでしょう。事実を語る積み重ねが、ずっしりと読む者の心を揺さぶります。
  戦争を体験した方は、終戦時に18歳でも今は84歳です。極限の状況について、体験者から直接聞き取るチャンスは急速に減ってきています。私自身も、生の戦争体験談を聞いた経験は3回しか思い出せません。毎日午前中に行われた特攻者リスト発表の恐怖を語った人、戦艦大和の乗組員で最後の出撃前夜に君達は生き残れと艦から下ろされたという人、中国大陸で毎日のように現地人を処刑していたという人。でも、いずれも四方山話のついでに伺った程度であり、私自身に限らず、戦争体験の語り継ぎは明らかに不十分だと感じています。そんな意味でも、この小説は貴重です。
  さて、東高生の皆さんにこの小説をお薦めする理由は沢山あります。でも敢えてひとつ挙げれば、この小説の根底を流れるテーマが、生きることの肯定、言い換えると、自分自身や周りの人に対する愛情だからです。(このことも『一瞬の風になれ』と共通しています)
  私自身、ちょうど仕事がとても忙しい時期に、この小説を読んだおかげで、その忙しさを生の充実と捉える心の余裕がもてました。高校生の皆さんにとっては、正しい進路を照らし出すたいまつのひとつになる小説であろうと期待しています。

■個人的な余談
  電車での移動中や就寝前の10分程度の読書を、大きな楽しみにして生きている私ですが、古文・漢文が混じった本になると、全くお手上げになってしまいます。
  原因は高校時代の勉強不足だと自己分析しています。私の通っていた高校は大学の附属校で、とにかく卒業すれば大学に進学できました。その甘い状況下で、古文・漢文は落第しないための最低限しか勉強せず、基本が全く身についていないのです。進学に必須でないことに加え、高校生だった当時は「そんな昔のことを勉強したって意味ないじゃん」という浅はかな確信をもっていました。
  もう少し年老いたら、学び直せるチャンスが来るのでしょうか。


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