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おすすめします『動的平衡―生命はなぜそこに宿るのか』福岡伸一著

  娘の課題図書だったのでしょうか。
  乱雑に積み上がったコタツの上に所在無げに投げ出されていた一冊・・。売れっ子の分子生物学者、福岡伸一氏の名著(と言われている)「動的平衡」。
  たしか「できそこないの男たち」なんてすてきな題の本もお書きになっていらっしゃる方よねと手にとってパラパラすると、若冲の「象と鯨図屏風」の挿絵が入っていて、ガゼン興味をひかれました。
  というのも、若冲展を見に行った友人(80才のおばさまです。)から若冲を見たら、大観も天心もなべて色あせて見えた、江戸時代というのは相当奥が深いわーと嘆息混じりの葉書きをいただいたばかりだったからです。で、その挿絵周辺をパラパラと読み始めたら面白くて、思わず最初に戻って完読してしまったというわけです。
  
  分子生物学というとDNAだのES細胞だの、テクノロジー至上主義のイメージが先行してしまい、ついていけない世界だと敬遠していましたが、本書は生命活動の不思議さそのものに迫っていて、とてもスリリング。
  いわく、すべての生物体は、たえず細胞が生まれ壊れていく流れの中にある。その流れが平衡している状態、それが生命の実態である。これは1930年代後半から40年にかけて、シェーンハイマーという生物学者が「動的平衡」として唱えた生命論ですが、この論を福岡氏は「機械論的生命観」にコペルニクス的転換をもたらしたものと高く評価しています。

  そして「私たちの身体は分子的な実体としては、数ヶ月前の自分とは全く別物になっている。分子は環境からやってきて、一時、淀みとしての私たちを作り出し、次の瞬間にはまた環境へと解き放たれていく。」と書いています。(「動的平衡論」)
  つまり命あるものたちは、分子を取りこむ容れ物ではなく、それ自体が生成死滅を繰り返す流れだというわけです。その中で保たれる平衡(動的平衡)こそが生きているということだと論じています。ダイナミックで、説得力のある生命観に目が洗われるようです。
  
  福岡伸一氏は「生物と無生物の間」という著書でサントリー学芸書を受賞しておられ、文章も柔軟で誠実、説得力に富んでいます。分子生物学、生命科学という今一番しのぎを削っている分野と一般人をつないでくれる極上のトランスレータと拝見しました。
  また、ダイエット、食品の安全性、サプリの有用性など耳よりな情報も多々論じられていて、お役立ち度もかなりのもの。たとえば分子生物学的には、人間は食べたものがすべてだそうですから、勉強も大事ですが、成績を伸ばすためには食べる物にも同じぐらい注意を払った方がよいということもよく納得されます。

  さて、若冲の「象と鯨図屏風」の挿絵に戻ると、この挿絵はライアル・ワトソンの「エレファントム」という本にある象と鯨をめぐるエピソードの引用に付けられていました。生物として深いところから共感が湧くようなとても美しいエピソードです。  
  私を形作っている分子のひとつが、一昔前鯨や象の細胞だった頃を思い出して共感に打ち震えていたかもしれません。

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