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お勧めの3冊お勧めの3冊:

  西のはての年代記3部作
「ギフト」「ヴォイス」「パワー」
                        アーシュラ=ル=グウィン作

  ヒトは物語なくしては、生きていけない動物なのかもしれません。読み終わって、そういう思いに捉われました。
  アーシュラ=ル=グウィン、「ゲド戦記」シリーズの作者としてつとに名高い彼女ですが、八十を前にして書き下ろした作品は「ゲド戦記」を上回るみずみずしさ、虚構性を感じない巧みな筆さばきで読者を最初から物語世界に拉致してしまう強い吸引力を持っています。しかも物語が展開される背景は、作者が愛してやまない古代とおぼしき時代とあっては、面白からぬはずがありません。

  第2巻「ヴォイス」の主人公は、敗戦で占領下におかれた古い歴史を持つ国の少女メマー、第3巻「パワー」では家内奴隷の少年カヴィア。こうした弱者を主人公に据えたル=グウィンの執筆意図は苛烈かつ明白です。支配すること、されること、自由とは何か、人の尊厳とは?など、生きる上での根源的な問題に、読者である私たちも主人公と一緒に直面させられることになります。ル=グウィンの筆はかなり過酷です。ヤングアダルト向けの作品としては異例の過酷さではないかと思われるほどです。が、それは現在、世界の諸所で進行中の「過酷な」現実を若い人たちにきちんと手渡し、その底に流れる人間の性(さが)とでもいうべきものとの関係を知らしめたいという作者の覚悟からでしょう。

  こうした縦のストーリーとともに、この3部作には、物語や言語へのオマージュが横糸のように織り込まれています。詩や物語が人々の心にどんな励ましを与え、力になるかを、作者は第1巻「ギフト」の主人公オレックを伝説の詩人として随所に登場させることで、また、第3巻の主人公のカヴィアにオレックの詩にあこがれる「詩や物語の語り手」の仕事をさせることで、繰り返し語ります。同じく、第2巻の主人公メマーも秘密の部屋で、古代語の魅力にひかれ、毎夜灯火をともす少女です。幼い日から、常に物語の傍らにあったル=グウィンの文学や歴史への賛美、強い信頼が伺われます。
  
  考えてみると、人に与えられた想像力というのは、その人自身の人生をはるかに超えて、翼を広げる少々厄介なものなのかもしれません。そのために人は物語、ないしは他の人生を体験したいという強い渇望を持つのだと思います。そうして生まれた数々の物語。真の文学は実人生を支える糧となり、他の社会で生きる人を理解し、友人となる寛容さをはぐくむとル=グウィンは確信し、伝えたいと考えているように思いました。

  ともあれ、高潔な人柄と勇気を併せ持つ主人公たちは児童文学の王道です。そしてそれを取り巻く陰影に富んだ人々と「マザーグース」(母の物語)が持つ暖かな雰囲気は実に魅力的です。しらかし祭で全力を出し切った生徒の皆さん、最近お疲れ気味という保護者の方々にお勧めします。いっそ親子で読んでみるのも良いのでは?  どの巻も独立して読めるので、第1巻より物語性の強い、第2巻から読むことも可能です。

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